音色って何ですか?

私は昔から音色の違いがわからない。いや、昔からというのは語弊がある。子供の頃はそもそもピアノに音色の違いがあるという知識などなかった。大人になり、ピアノ系の記事や動画を見ているうちに、どうやらピアノにも「音色」というものがあるのだと知った。しかし未だにその音色というものの正体もわからなければ、違いを聞き取れた試しもない。

私が様々な記事や動画を見て、「音色」とはなんだろうかと自分なりに解釈したのは、「全く同じピアノ、打鍵スピード、離鍵のタイミング、強さ、音量バランスにも関わらず、違って聞こえること」である。

正直、そんなことある?と思うのだ。もちろん、音を録音して波形を分析したら同条件でも毎回微妙な差異があるだろう。しかしそれを明確に聞き取ることが果たしてできるとは思えない。

では素人とプロの演奏、あるいは複数のピアニストの演奏が全部同じに聞こえるのかというとそうではない。でもその違いは音色の違いによるものではない。

テンポ、強弱の付け方、ペダルの有無、ペダルを踏むタイミング、和音のバランス、内声の浮かび上がらせ方、スタッカートの歯切れ良さ、レガートの具合、ritのかけ方、右手と左手のバランス、ピアノのメーカー、ホールの違い、…などなど、一つの演奏には無数の変数があり、誰一人として全く同じ変数で演奏することはできないし、一人が同じ曲を複数回演奏しても絶対に同じにはならない。

この変数の組み合わせによる総合的な演奏の仕方を全部ひっくるめて「音色」と呼ぶのであれば、わかる。

実際、Wikipediaで定義を調べると、「物理的に異なる二つの音が,たとえ同じ音の大きさ及び高さであっても異なった感じに聞こえるとき,その相違に対応する属性」とある。つまり音の大きさと高さが一緒であれば、それ以外の変数による違いが音色の違いになると解釈することもできそうだ。テンポが違えば違う音色、ritの速度が違えば違う音色、ペダルの有無で違う音色、ペダルの踏み替えタイミングが違えば違う音色ということになる。つまり、「聴衆に抱いてほしい印象を抱かせるために駆使する、演奏者の持つテクニックや演奏環境を総合した結果としてその場に発せられる音」を音色と解釈できる。

でもピアノ界隈で言われている音色はそういうことじゃないと思う。ピアノ系の記事や動画では、音色のコントロールはタッチの仕方と密接に結びついていることが多いと感じる。タッチの微妙な違いによる、微妙な音の違いについて語られていることが多い気がする。ペダルの有無やritの速度は、音色ではなく演奏技術や表現のカテゴリーになるだろう。

参考:ピアニストの「タッチ」が音色を変えることを科学的に解明 | 一般社団法人NeuroPianoのプレスリリース

とすると、やはり音色というのは、「あらゆる変数が同じ条件であることを前提とした上での、演奏者による音の違い」を指しているのだと思われる。演奏の文脈とは別に、独立した「音色」というものがあるのである。

ピアノ系の記事や動画で、うまくなるには、というかピアノを弾く上での基礎としてタッチによる音色のコントロールが前提となっているのを見るにつれて、音色というものが理解できない私は一体どうしたらいいのかと途方に暮れる。最近グランドピアノをよく弾いているが、何かタッチを変えて音を変えてどうこうというのは正直全くわからない。どう弾いても同じに聞こえる。いや、どう弾いてもというのは語弊がある。例えば弱く弾けば弱い音になり、強く弾けば強い音になり、弱すぎると音が鳴らない、和音を弾く指のバランスを変えれば和音の聞こえ方が変わる、ペダルを入れれば柔らかく聞こえる、踏み替えをミスれば音が濁る、などそういったことは当然わかる。でもそれらはそれぞれ「強弱」や「ペダル」といったカテゴリーの話で、演奏の変数を変えているのだから違って聞こえるのは当たり前である。タッチの違いによる音色の違いの話ではない。一番基礎となる音色の違いがわからないのに表現だけ練習することへの虚しさのようなものを感じる。

何より悲しいのが、電子ピアノとグランドピアノの違いが「タッチで音色をコントロールできるかどうか」であることだ。グランドピアノは音色のコントロールができることが大きな特徴なのに、その違いがわからないなら何のために高いお金を払って一生懸命グランドピアノを弾きに行っているのだろう。グランドピアノで練習すればうまくなると一般的に言われている。ただしそれはタッチによって音色を出し分けて、より多彩な弾き方をするための練習ができるからである。そもそも違いがわからなければ、グランドピアノで練習することに意味があるのか。

音色ってなんですかね。もっとグランドピアノを毎日弾き続ければわかるんでしょうか。その謎を解明すべく我々はアマゾンの奥地へと向かった。To be continued…

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